第32章 scene6:僕はHIME…
「翔くん? ねぇ、どうしたの?」
蹲ったまま、立ち上がろうとしない翔くんの肩を、僕もしゃがんで揺する。
でも翔くんは頭をを抱えたまま、何も答えてはくれなくて…
でもその代わりに、
「その指輪な、翔がまだ…小学生の頃だったかな、いつか本当に好きな人に出会えた時に、その人に渡すんだって、少ない小遣い貯めて買った物でな…」
そう…なんだ?
え、でもそんな大事な物が、どうしてここに?
「俺も存在自体すっかり忘れてたんだが、つい最近になってソイツが机の上に出してあるのを見て、確信したんだ」
何…を?
「翔にもいよいよソイツを渡したいと思う相手が出来たんだな、って…」
え…?
ねぇ、それって…
「そしてその相手がHIME…、お前だってこともな?」
「う…そ…、ねぇ、そうなの?」
僕が少し乱暴に肩を揺すると、翔くんはずっと抱えていた頭をパッと上げ、今にも泣き出しそうなお顔で僕を見た。
「うん…、潤兄ぃが言ったことは、全部本当だよ」
そう言ったきり、翔くんは一度長く息を吐き出しただけで、何も言ってはくれなくて…
僕は社長さんの手から小さなクッションを奪い取ると、それを翔くんの前に差し出した。
「智…くん?」
「嵌めて?」
「え…?」
「もし、本当に松本さんの言う通りなら、嵌めて?」
「で、でも、それ玩具だし、こんな安物…」
ううん、それは違うよ?
玩具とか…、安物とか関係ないよ。
「僕、それが良い…」
「え…、でも…、指輪ならもっとちゃんとしたのを…」
「それが良いの」
翔くんの想いがいっぱい詰まってるから…、だから…
「それじゃなきゃ嫌なの」
だからお願い…
「嵌めて?」
僕は翔くんに向かって左手を差し出した。