第32章 scene6:僕はHIME…
松本さんと相葉さんの号泣に、僕も翔くんも若干お顔を引き攣らせながら肩を揺らしていると、祭壇の奥から上下真っ黒なスーツを着たおじさんが現れ、説教台の前に立つと、大袈裟なくらい“ゴホン”と咳払いをした。
ってゆーか…
「え、 え、何で?」
よくよく見ると、そのおじさんは僕がHIMEとしてお世話になっていた事務所の社長さんで…
「何してんの?」
僕が言うと、社長さんはすっかららなりきっているのか、もう一度咳払いをすると、僕達のお顔を交互に見て、ニヤリと笑った。
そして手元にあった分厚い本を捲ると、眼鏡を色付きの物から、色無しの物へと変えた。
ってゆーか、最初からそうしとけば良いのに…(笑)
「ねぇ、何が始まるの?」
周りには聞こえないよう、声をひそめて翔くんに問いかけると、翔くんも何も聞かされていなかったらしく、“さあ…”とばかりに首を傾げた。
僕も翔くんも、予期していない展開に、凄く戸惑っていた。
でもそんな僕達の戸惑いなんて関係なく、社長さんはたどたどしい日本語で本(“聖書”のつもり…なのかな?)を読み進めて行き…
一通り読み終えると、今度は眼鏡を色付きの物に付け替え、分厚い本をパタンと閉じた。
そしてどこから取り出したのか、小さなクッションのような物を手に持ち、僕達の前に差し出した。
「え、これ…、どうして…?」
それを見た翔くんが、一瞬驚いたような声を上げる。
「どう…したの?」
僕が聞いても、
「いや、えっと…、え、ちょっと意味分かんないんだけど…つか、え、何で?」
翔くんは口の中でモゴモゴを繰り返すばかりで…
その動揺っぷりに、僕までなんだか動揺してしまう。
すると、
「無断で悪かったが、お前の部屋にあった物を拝借して来た」
さっきまで大号泣していた松本さんが、翔くんの肩を叩いた。
「マジか…、嘘だろ…、何で…?」
突然頭を抱え、その場に蹲る翔くん。
ねぇ、一体何なの?