第32章 scene6:僕はHIME…
「HIME…、智…くん…?」
振り返った彼が、僕の名前を呼びながら目を丸くするけど、その目はすぐに細められて…
「凄く綺麗で…、可愛い…」
もう何度目だろう、その言葉を聞いたのは…
でも、翔くんの言葉は特別。
他の誰に言われるよりも、嬉しい。
「ふふ、翔くんも素敵だよ?」
ってゆーか、どうしてタキシードなんか?
「そ、そう? 俺は別に良いって言ったんだけどさ、相葉さんがどうしても、って言うからさ…」
そうなんだ?
…って、益々展開が分からなくなって来たんだけど…?
「あの…さ、抱きしめても良い?」
え…?
「あ、う、うん…」
僕がゴクリと頷くと、翔くんは一つ咳払いをしてから、僕の腰に腕を回した。
なんだか変だ…
お互い(特に僕は…)いつもと雰囲気も、それから服装も違うから、同じ“翔くん”なんだけど、別人のようにも感じて…
でも僕を抱きしめる腕の強さも、温かさも、首筋に触れる吐息も…、間違いなく僕の大好きな翔くんで…
「ふふ、なんか変な感じね?(笑)」
僕が笑うと、翔くんも撫でた肩を竦めて、
「確かに(笑)」
と言って笑った。
そうして暫くの間抱き合って、キスこそしなかったけど、頬を寄せ合っていると、いつからそこにいたのか、
「取り込み中悪いが、そろそろ中に入らないか?」
上下ラメ入りの紫のスーツを着た松本さんが立っていた。
ってゆーか、いつから見てたの?
「ね、ねぇ、どうして松本さんが?」
僕が言うと、翔くんはバチンとウインクをしてから、僕にスっと右手を差し出した。
「行こうか、俺のお姫様」って、とびきりキザなセリフを言いながら。
僕は思わず吹き出しそうになったけど、翔くんが差し出してくれる右手に、そっと自分の手を重ねた。