第32章 scene6:僕はHIME…
「ねぇ、待って…、どこに行くの?」
翔くんはどこにいるの?
ドレスの裾を気にしながら、それでも引き摺られるようにNINOの後を追いかける僕。
でもNINOは何も答えてくれない。
だからかな…、滅多なことじゃ怒ったりしない僕だけど、流石に腹が立って来て…
「ね、ねぇ、長瀬さんと言い、NINOと言い、一体何なの? 翔くんはどこにいるの?」
NINOの手を思い切り振りほどいた。
でもNINOはやっぱり何も答えてはくれなくて…
丁度コテージの裏側に回った時、ピタリと足を止め、僕を振り返った。
そして長い黒髪をサラッと靡かせたかと思うと、ゆっくりと僕に歩み寄って来ると、そっと僕のことを抱きしめた。
え…?
「今日のHIMEちゃん…、とっても綺麗。それに凄く可愛い」
「そ、そう…?」
「ええ、本当よ? 私が嘘をついたことあったかしら?」
「あ…」
そうだ…、NINOは僕に嘘はつかない。
いつも本当のことしか言わない。
尤も、和はたまに嘘つきになるけどね?(笑)
「くくく、だからそんな背中を丸めてないで、もっと自分に自信を持って?」
「うん…」
ってゆーか僕…、自分がとーっても綺麗なことも、すんご〜く可愛いことも知ってるもん♪
ただ、猫背だけはどうにもなんないんだけどさ…
「さ、この先で大好きな彼が、首を長ーくして待ってるわよ。行きなさい」
「うん…」
NINOの身体が僕から離れ、ポンと背中を押され、僕は自分の意志とは関係なく一歩を踏み出し、NINOが指さした方へと、一歩ずつ歩を進めた。
そして立ち並ぶ木々の間に、白い背中を見つけた瞬間、僕の胸がドクンと大きく跳ねた。
「翔…くん…?」
僕が声をかけると、ちょっぴり撫でた肩が、ピクンと持ち上がって…
白い背中が、ゆっくり僕を振り返った。