第30章 日常15:こんなの初めて♡
「本当…に? 本当に俺で良いの?」
僕を抱き締めたまま、翔くんがちょっとだけ驚いたような声を上げるから、僕は思わず笑ってしまう。
だって僕が翔くんに”抱いて欲しい”って言ってるのに、翔くんたら信じてないもん(笑)
それに、”抱きたい”って先に言ったの、翔くんの方だからね?
あ、でもちょっと待って?
「シャワー、浴びて来ても良い?」
僕が言うと、翔くんは僕が腕の中からすり抜けて行かないように、背中に回した腕に更に力を入れるから、僕の息が詰まりそうになる。
「良いよ、そんなの…」
「ダメだよ…、このままじゃ汗臭いし…」
「俺は気にしないけど?」
翔くんは気にならないかもしれないけど、僕は気になるの!
それに…
「翔くんは必要ないかもしれないけど、僕は色々その…準備もあるから…」
「準備って…、あっ…」
ふふ、ピンと来たみたいだね(笑)
そう…、とっても面倒な事なんだけど、いくら見た目を女の子みたくしても、心が女の子だったとしても、所詮身体は男の子なわけだから、受け入れるまでにはそれなりに準備が必要なんだ。
「だからね、ちょっとだけ待ってて? すぐ戻るから…、ね?」
「分かった、待ってるから、キスしても良い?」
背中に回っていた翔くんの手がほんの少し緩まり、漸く正面からお顔を見合わせた僕達は、どちらともなく唇を重ねた。
チュッっと触れるだけのキスをね?
翔くん的にはもっと深いキスを望んでいたみただけど、仕方ないよね?
だって今深いキスをしてしまったら、たとえわずかな時間であったとしても、きっと離れたくなくなっちゃうもん。
僕は翔くんが唇を離したタイミングで翔くんの腕から抜け出ると、バスタオルだけを手にバスルームへと向かった。
リビングのドアを閉める時、チラッと翔くんを振り返ったら、ちょぴり寂しそうなお顔をしてたけど、仕方ないよね?
色々準備が必要なのは事実だしさ…