第29章 日常14:はじめの一歩
晩ご飯を終え、満腹になったお腹を摩りながらお部屋に戻ると、まるで待っていたかのように翔くんが僕をギューッと抱きしめた。
「苦しいよ(笑)」
「うーん…、だって離したくないんだもん」
ふふ、分かるよ、僕だって同じ気持ちだから。
でもさ、そんなにギューギューしたら、晩ご飯がお口から出てきちゃうよ?
「明日、何時頃出るつもり?」
「特に考えてなかったけど、どうして?」
僕が見上げると、翔くんはちょっぴり照れたようなお顔をして、パッと僕から離れ、ベッドの端っこに腰を下ろした。
「智くんには悪いけど、出来れば早目に出たいかなって…」
「何か用事でもあった?」
翔くんにしてみればお泊まりになるなんて予想外のことだっただろうし、もしかしたら予定があったのかもしれない…、って思ったんだけどね?
「いや、特に用事とかはないんだけどさ、その…、一度家に帰って、それから智くんとゆっくり…なんて、思ってさ…」
どうやら違ったみたい(笑)
翔くんが早く帰りたかった理由は、僕と早く二人きりになりたかったからみたいで、
「あ、で、でも智くんがもう少しゆっくりって思ってるなら、俺は別に…」
普段は僕に合わせてなのか、割とゆっくりめの翔くんの口調が、珍しく早口になっている。
おまけどんどん唇尖っててるし(笑)
僕は翔くんの隣に腰を下ろすと、膝の上で握った翔くんの手を両手で包んだ。
「ううん、始発…はちょっと無理だけど、なるべく早く出よ?」
「いい…の?」
「うん。だって僕も早く翔くんと二人きりになりたいから」
二階まで父ちゃんや母ちゃんが上がって来ることは滅多にないけど、下で物音がすればやっぱり気になっちゃう。
それに加えて、姉ちゃんがお泊まりするとか言うしさ…
姉ちゃんのお部屋は、壁一枚挟んだ隣だから、あんまり大きな声ではお話できないし、勿論イチャイチャだってさ出来ないじゃん?
もぉ、勘弁して欲しいよ。