第29章 日常14:はじめの一歩
お風呂から上がった僕達は、しっかり手を繋いでリビングに入った。
すると…
「へえ〜、彼が噂の? ふ〜ん、けっこう良いじゃない(笑)」
出来た料理をテーブルに並べながら、姉ちゃんが僕達を見てニヤニヤと笑った。
ってゆーか、噂って何?
「あ、俺、櫻井翔です。えーっと…」
「んとね、僕の姉ちゃん」
「あ、そ、そうなんだ…?」
え、ねぇ、何か様子おかしくない?
ううん、様子ってゆーか、姉ちゃんを見る翔くんの目…
そうだ、この目はHIMEを見てる時の目と同じだ。
確かに、姉ちゃんと僕は小さい頃から良く似てるって言われることも多かったけど、まさか…ね?
「翔くん、ちょっと…」
僕はうっとりと姉ちゃんを見入っている翔くんの腕を引くと、普段は滅多に出さない馬鹿力で翔くんを廊下へと引き出した。
「何、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…、翔くん、姉ちゃんはHIMEじゃないよ?」
「そ、それは…そうでしょ? だってHIMEは…」
言いかけて翔くんが手でパッと口を塞いだ。
父ちゃんがお風呂に向かうのに、僕達の前を横切ったからだ。
でも僕はそんなこと全然気にしてなくて…
「そう…僕がHIMEなの。だからHIMEを見るような目で、僕以外の人なんて見ないで?」
例え姉ちゃんの姿形が似てたとしても、姉ちゃんはHIMEじゃないから…
「ごめん…、別に智くんが想像するようなことは考えてないから…。でも…」
翔くんの右手が僕の顎にかかり、左手が僕の前髪を搔き上げた。
「不安にさせたならごめん…」
そう言って翔くんの唇が僕の頬に触れた。
「ううん、僕の方こそ変なこと言ってごめんなさい」
前は翔くんが他の人を見てたって、ここまでヤキモチ焼いたりはしなかったけど、恋人になった今は違う。
ちょっとしたことでもすぐ気になっちゃう。
はあ…、こんなんじゃダメなのに…