第29章 日常14:はじめの一歩
チャポン…と湯面を揺らして翔くんが湯船に浸かる。
大人二人が入ったら窮屈に感じるバスタブの中で向き合って座ると、僕達の距離が近くなって…
視線なんて全然合わせなくても、自然と唇が重なった。
どちらともなく舌を絡め合い、混ざり合った唾液がポチャンと音を立てたタイミングで唇を離す。
「これ以上は止めらんなくなるから」って…
ちょっぴり寂しいけど、僕もその意見には賛成。
だってまだ父ちゃんだってお風呂に入るのに、汚すわけにはいかないし、それに僕…
「そろそろ上がって良い?」
これ以上浸かってたら、確実に逆上せてしまう。
「そうだね、その方が良さそうだね。智くんの口の中、超熱くなってるし」
「ふふ、翔くんだって…」
「よし、じゃあ一緒に上がろうか」
「うん…」
って頷いたものの、ちょっと待って?
一緒に上がったら、僕のチクチクのお股見られちゃう…よね?
それだけは絶対ダメ!
「しょ、翔くんはもうちょっと入ってなよ。僕、先上がるか…、えっ…?」
さり気なくお股を隠しながら立ち上がった僕の手が引かれ、僕は再び湯船の中に引き込まれてしまう。
それも翔くんの腕の中に…
背中からギューッと抱きしめられ、
「あ、あの、翔…くん?」
振り向こうとした僕の肩口に、ほんのり父ちゃんの匂いがする翔くんの髪の先が触れた。
ってゆーか、翔くん…笑ってる?
「すげぇ可愛い(笑)」
へ?
「あのさぁ、智くんは俺が気付いてないと思ってるかもしんないけどさ、俺しっかり見ちゃった…つか、見えてたし」
え…?
「風呂入る前、俺が見てる前で勢い良く服脱いだの、誰だっけ?」
あ…
そう言えば僕、汗でベチョベチョなのが嫌で、お股のことなんてすっかり忘れてポンポンって…
「だからさ、無理に隠さなくて良いから…つか、そうやって隠される方が、実はすげぇ気になったりすっからさ…」
そう…なの?
そんなもんなの?
僕…全然知らなかったよ…