第29章 日常14:はじめの一歩
なんだろうと、内心戸惑いながらも封筒を受け取り、中を覗くと、一万円札が二枚入っていて…
「え、何…?」
「少ないけどバイト代だ。交通費の足しにでもしてくれ」
そう言って棟梁は笑うけど、だって僕は父ちゃんの代理で来てただけだし、それに代理って程の仕事だって出来てないのに?
「受け取れないよ…」
それもこんな沢山…
僕は迷うことなく封筒を棟梁に返そうとするけど、棟梁はなかなか受け取ってくれなくて…
どうしよう…、とばかりに父ちゃんに視線を向けると、
「有難く貰っとけ」
って言って、さっさと軽トラの運転席に乗り込んでしまった。
それから翔くんも…
「頑張って良かったね」
なんて爽やかに笑いかけてきたりするから、もう受け取るしかなくて…
「ありがとうございます」
僕は棟梁にお礼だけ言って、封筒をポケットに捻じ込んだ。
ってゆーか、バイト代ってことは、僕、もう明日から来なくても良いってこと?
それに”交通費の足しに”って…
え、もしかしてそーゆーことなの?
え、僕・・・お役ご免なの?
僕の疑問は、その日の晩ご飯の最中に解決されることになった。
僕達が家に帰ると、近所で一人暮らし中の姉ちゃんが、珍しく母ちゃんのお手伝いをしてて、汗と埃にまみれた僕達の姿を見るなり、シッシとばかりにお風呂場へと追いやった。
ってゆーか、大人の…しかも男ばっか三人は、流石に窮屈じゃない?
僕が服を脱ぐのを躊躇っていると、父ちゃんが少しだけお顔を赤くして、
「俺は後で入るから、お前ぇら先に入れ」って、脱衣所から出て行ってしまった。
「なんか…悪いことしたかな…」
翔くんが申し訳なさそうなお顔をするけど、僕は違うと思う。
多分、父ちゃんなりに気を利かせたつもりなんだと思う。
だってさ、いくら男同士って言っても、息子と、その息子の恋人と一緒にお風呂なんて…ねぇ?
僕だって恥ずかしいもん。