第29章 日常14:はじめの一歩
朝ご飯にと母ちゃんが作ってくれたおにぎりを手に、父ちゃんの軽トラに乗り込む。
けど、なかなか父ちゃんが運転席に座る様子がなくて、僕がサイドミラーで後方を確認すると、父ちゃんと翔くんが、言い争うでもなく、鍵をあっちへやったりこっちへやったりとしてて…
まさかと思うけど、違う…よね?
僕の脳裏に、昨日の恐怖が蘇った。
もうあんな怖い思いをするのは、翔くんには悪いけどゴメンだ。
電柱には突進して行くし、壁には擦りそうになるしで、全然生きた心地しなかったんだもん。
「父ちゃん、早くしないと遅れるよ?」
僕は父ちゃんがキーを手にしたタイミングを見計らって、窓から身を乗り出すと、父ちゃんに手招きをした。
当然運転席に乗り込んだのは父ちゃんで、僕の隣には翔くんのちょっぴり不満顔があったけど、僕的にはホッと一安心♪
だって、まだ翔くんとあんなこともこんなこともしてないのに、死にたくはないもん。
僕は母ちゃんが作ってくれたおにぎりを一つ、しっかりラップを捲ってから翔くんに差し出した。
安心感たっぷりの父ちゃんの運転で現場に着いた僕達は、大工の棟梁の指示でそれぞれ、翔くんは父ちゃんのお手伝いで、僕は棟梁のお手伝いをすることになった。
本当はね、一緒にいたかったよ?
でもさ、一緒にいたらきっと翔くんのことばっか気になっちゃうし、イチャイチャだってしたくなっちゃって、それこそお仕事にならないもんね?
多分翔くんも僕と同じように思ってる筈。
それに、僕が常に翔くんの傍にいたら、父ちゃんと翔くんの距離、縮まんないもんね?
だから残念ではあるけど、仕方ないよね。
ってゆーか…
翔くんて、力はけっこうあるみたいだけど(筋肉凄いし♡)、細かい作業って全然ダメだったような気がするんだけど…大丈夫かな…
ちょっぴり心配だけど、僕が心配した所でどうにかなる問題でもないしね?
僕は僕のお仕事に集中しなきゃね♪