第29章 日常14:はじめの一歩
たっぷり(僕的には足りないくらいだけど…)イチャイチャしてから、手を繋いで階段を降りて行くと、作業着姿の父ちゃんが玄関に立っていて…
「父ちゃん、仕事いくの?」
確か母ちゃんの話では、今いっぱいは週お休みして、来週から復帰だって聞いてたような気がするんだけど…?
だから僕もそのつもりでいたんだけど?
「これ以上休んじまったら、身体がなまって仕方ねぇからな」
そりゃ家にずっといるのも退屈だろうけど、父ちゃんてば自転車で土手から転げ落ちて腰を強打したんだよ?
んで、救急車で運ばれたんだよ?
「まだ無理しない方が良いんじゃないの? 仕事なら僕が代わりに行くし…」
僕では父ちゃんみたいなお仕事は出来ないけど、それでも現場のおっちゃん達からは重宝がられてるし、可愛がっても貰ってる。
父ちゃんみたいなお仕事に就こうとは思わないけど、僕自身お仕事がちょっと楽しくなってきたところなんだよね。
「私も、せめて今日一日って言ったんだけどね、父ちゃん聞かないから(笑)」
ねぇ、笑ってる場合?
分かるけどさ…
父ちゃんは根っからの仕事人間だし、超が付く程の頑固親父だってことも知ってる。
でもさ、もう若くないじゃん?
無理はして欲しくないんだけど…
僕が頭を抱えていると、
「そんなに心配なら、俺達も行かない?」
って翔くんが思い付いたように言って、僕に向かってウィンクを一つした。
「僕達…も? 父ちゃんと一緒に?」
「そう。それなら智くんも安心でしょ?」
確かに!
翔くんって、やっぱり頭が良い!
確かにそれならお手伝いも出来るし、何より父ちゃんが無理しないか監視(←言い方な?)も出来るし、僕的には願ったり叶ったりじゃん♪
「じゃあ急いで支度しなきゃ♪ あ、母ちゃん、僕達の分のお弁当もよろしくね!」
「はいいはい(笑)」
渋いお顔をする父ちゃんと、腕捲りをしてエプロンをかけなおした母ちゃんを尻目に、僕は翔くんの手を引いて大急ぎで階段を駆け上がった。