第29章 日常14:はじめの一歩
でも翔くんは床に額を擦り付けたままで、ピクリとも動かなくて…
答えに迷ってるんだと思った。
翔くんは元々女の子が好きで、でもたまたま僕…ってゆーか、HIMEのことを好きになって、そのHIMEの正体が僕だったから、僕のことを好きになって…
だから覚悟とかって言われたって、きっと翔くんにはピンとこないんじゃないか…って、僕は勝手に想像して、勝手に不安になっていた。
でもそうじゃなかった。
翔くんはゆっくりとお顔を上げると、握っていた僕の手を引き寄せ、ついでに僕の肩も抱き寄せた。
え、ちょっと?
ねぇ、父ちゃんと母ちゃんの前…だよ?
戸惑う僕と、一瞬ギョッとしたお顔をする父ちゃんと母ちゃん。
でもそんな僕含め三人に構うことなく、翔くんは僕を更に胸に抱き込むと、驚いて見上げた僕をキスしてしまいそうな距離感で見下ろし、クスッと笑って、
「俺、覚悟とか…、正直良く分かんなくて…。でも自信はあるっつーか…。この先、どんな関係になろうと、智くんのことを好きでいられる自信はあります」
いかにも翔くんらしい、ハッキリとした口調で自分の気持ちを口にした。
そして、
「まあ…、自信と覚悟とでは、若干…つか、かなり意味合いが違いますけどね?」
って撫で気味の肩を竦めた。
僕は何だか胸が凄くあったかくなったような気がして…
気付いたら、父ちゃんや母ちゃんがいることも忘れて、翔くんの胸にしがみつくようにして、お顔を埋めていた。
だって嬉しかったんだもん。
この先僕達がどうなるかなんて…、もしかしたら翔くんよりもっと素敵な人が現れるかもしんないし、翔くんだってやっぱり女の子が良いって思うかもしんないし、そんなの誰にも…神様にだって分かんないことだよ?
でも、それでも僕のことを好きでいてくれるって…
そう言ってくれただけで、僕は凄く幸せだし、翔くんを好きになって良かった…って、そう思えたんだ。