第29章 日常14:はじめの一歩
「あのね、智? 父ちゃんも私も、ずっと前から知ってたのよ、あんたがその…男の子が好きだってこと…」
僕と似て口下手な父ちゃんの代わりに、母ちゃんが言う。
当然、二人が気付いてたなんて全然知らなかった僕は、目ん玉が落っこちるくらいの勢いで驚いて…
「知ってた…って、え…、嘘…、え、何で?」
「何でも何も…、親だもの、分かるわよねぇ、父ちゃん?」
母ちゃんに肩を揺らされ、父ちゃんが心做しか赤くなったお顔で頷く。
ってゆーか、知らなかったの僕だけってことだよね?
え〜、酷くない?
「だからね、あんたは翔くんをお友達だって紹介したけど、私はピンと来てたって言うか…」
「そう…だったんだ…?」
なんだ…、だったら最初から“恋人です”って紹介すれば良かったじゃん。
「でもまさかこんな風にご挨拶されるなんて、ねぇ…? 何だか息子を嫁に出す気分だわ(笑)」
よ、よ、よ、嫁って…!
そりゃさ、たかだか恋人としてお付き合いするってだけで、親に挨拶…ってのも大袈裟だとは思うけどね?
でも嫁って…まだエッチもろくにしてないし、そこまでの関係じゃないから、翔くんだってきっと困って…
「嫁…、智くんが俺のYOME…、悪くないかも♡ 」
あはは…、なかったみたい(笑)
でも翔くんがニヤケてたのはそこまで。
直ぐに真剣なお顔に戻して、また額を床に擦り付けた。
すると、その様子を見ていた父ちゃんがぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し、カップをテーブルに置いてから、また両腕を組んだ。
「あのな、二人とも…。俺は、男が男に惚れるっつーのがどんなもんかは分かんねぇ。けどな、簡単な事じゃねぇってことは、よーっく分かる」
「父ちゃ…ん?」
「相当な覚悟が必要だってこともな…?」
「うん…」
「おめぇらにその覚悟はあんだよな?」
父ちゃんにそう問われて、僕は思わず翔くんを振り返った。
僕はずっと自分の性癖と向き合って生きてきたから、それなりに色々覚悟はして来てるけど、果たして翔くんはどうなんだろう、って…