第28章 日常13:夢なら醒めないで…
「だからね…」
僕の手を握っていた手が離れ、その代わりに僕の頬を両手で包む。
「今日は…無理だけど、今度ゆっくり…ね?」
「本当に? 絶対?」
もう僕から逃げたりしない?
「約束してくれる?」
じゃなきゃ僕…、誰に軽蔑されても、この場で翔くんのこと、押し倒しちゃうよ?
「うん、する…っつーか、約束させて?」
「え?」
首を傾げた僕の額に、翔くんがチュッと音を立ててキスをする。
汗いっぱいかいちゃったから、汗臭くないかちょっぴり心配。
「俺、ちゃんと大事にするから」
うん…、僕もだよ?
「それから、ちゃんと責任も取るから」
責任…って何の?
僕が更に首を傾げあ丁度その時、下から母ちゃんが僕を呼ぶ声がした。
気付かなかったけど、パートから帰って来てたみたいだ。
「僕、ちょっと行ってくるね?」
「うん」と翔くんが頷いたのを確認してから、僕は部屋を出た…けど、ちょっと待って?
父ちゃんとはもうお顔は合わせたみたいだけど、母ちゃんとは…まだだよね?
ちゃんと紹介しなきゃ…だよね?
僕は降りかけた階段を再び駆け上がり、部屋のドアをパーンと開け放つと、驚いたように目を丸くする翔くんの手を引いた。
「え、な、な、な、なに…?」
「んとね、母ちゃんに翔くんのこと紹介しなきゃと思って…。嫌?」
「ううん、全然嫌じゃない」
良かった♪
僕は翔くんの手を引いたまま階段を降りると、母ちゃんの鼻歌が聞こえるキッチンのドアを開けた。
「母ちゃん、おかえり」
「ただいま。ねぇ、今日の晩ご飯なんだけどね…って、あらお友達?」
ダイニングテーブルに広げた大量の食材を冷蔵庫に仕舞う母ちゃんの目が、僕の隣に立つ翔くんに向けられた。
「んとね、バイト先で一緒になって…、それで…えと…」
お互い気持ちは確かめ合ったことだし、“恋人”って紹介したいけど、いきなりだと母ちゃんビックリしちゃう?
だって母ちゃんは知らないから…、僕が男の子が好きだってことを。