第28章 日常13:夢なら醒めないで…
父ちゃんから受け取った車のキーの代わりに、僕の愛車(自転車だけど…)のキーを近くにいた職人さんに預け、僕達は父ちゃんのトラックに乗り込んだ。
「ごめんね…、こんな車で…」
「全然。この暑い中歩くこと思ったら、よっぽど楽だよ」
そう言ってくれると有難いけど…
「あ、でも俺、あんま運転自信ないから…」
そんなの気にしないよ。
ってゆーか…
「免許、持ってたんだね?」
「一応ね? ほぼほぼペーパーなんだけどさ…」
ペーパードライバーでも、免許を持たない僕にとっては、免許を持ってるだけでも凄い事だよ。
…って思ったのも束の間…
「え、え、え、うわっ…」
想像以上の運転っぶり(←勿論、悪い意味で)に、僕はシートベルトをしっかり掴み、両足を思いっきり踏ん張った。
「ご、ごめん、トラックなんて運転したことないから…」
う、うん…、そう…みたいだね…
僕はうっとり…どころか、半ば怯えたようなお顔で、不安そうにハンドルを握る翔くんのお顔を見つめていた。
そしたらさ、翔くんが僕の視線に気付いたのか、眉毛を思いっきり下げた情けないお顔で僕を振り返った…ってゆーか、
「ちょ、翔くん前…、ちゃんと前見て!」
「えっ? あ、うわぁっ…」
ぶつかる!って思って思った瞬間、翔くんが咄嗟に急ブレーキを踏んだ。
「…っぶね…、大丈夫…だった?」
「う、うん…、なんとか…」
見れば、もうちょっと先だと思っていた電柱は、フロントガラスの数センチ…は大袈裟だけど、すぐ目の前にあって…
良かった…、ぶつからなくて…
もしぶつかってたら、今度こそ母ちゃんの本物の涙を見ることになるところだったよ…
もっとも、生きてれば…のお話だけどね?
そんなこんなで、とても生きた心地なんてしないまま家に着いた僕は、珍しく車酔いをしている自分に笑った。
「大丈…夫?」
車から降りようにも、しっかり身体が硬直してしまっている僕に、翔くんが右手を差し出した。