第28章 日常13:夢なら醒めないで…
僕は急いで庭に降りると、激しく降りつける雨の中、傘なんて持ってないから、ずぶ濡れになって立っていた彼の腕を掴んだ。
そのまま軒下へと彼を引いて行き、首に巻いていたタオルで濡れた彼の髪を拭いた。
でもふと気付いたんだ…、もう僕なんかが触れちゃいけない人なんだ、って…
僕は咄嗟に彼から距離を置くと、背中を向け、両手に拳を作った。
「ねぇ、どうして…?」
「何が?」
「軽蔑…したんでしょ? だから、僕がHIMEだってこと知りながら、気付かないフリしてたんでしょ? 僕のこと揶揄って、陰で笑ってたんでしょ?」
だからあの日、僕の前から逃げ出したんでしょ?
ずっと胸の奥に仕舞い込んでいた感情が溢れ出して、もう止められなかった。
なのに彼はずっと黙ったままで…
それが余計に僕の胸を苦しくさせた。
だから…かな…
「嫌い…、大っ嫌い…、翔くんなんて…大大大大っ嫌い…!」
心にも無い言葉が口をついて溢れ出す。
本当はまだ好きなのに…
好きで好きで、堪らなく好きで…
翔くんのこと想うだけで、胸が痛くて、涙が勝手に出ちゃうくらい、こんなにも好きなのに…
「言ってよ…」
「何を?」
分かってるくせに…
本当にずるい…
「最低だ、って…。女の格好して、男の前でお尻振って、そんで…男に抱かれて喜んでるような奴、気持ち悪いって…、嫌いだって言えば良いじゃん…」
寧ろ、ハッキリ言ってくれた方が、スッキリ翔くんのこと忘れられるのに、
「言ってよ…、ねぇ…、言えよ!」
なのにどうして…?
「嫌だ…。言わない…、ぜってぇ言わない…」
雨と、濡れた土の匂いが混ざり合う中に、仄かに感じる翔くんの香水の匂いが、少しずつその濃さを増して行き…
僕の首筋に熱い吐息を感じた瞬間、僕は翔くんの腕の中にすっぽりと包まれていた。
「ど…して…?」
こんなことされたら、バイバイ出来なくなっちゃうじゃん…