第28章 日常13:夢なら醒めないで…
庭から通じるリビングから建物内に入り、途中になっていた作業現場に戻った僕は、またタオルを頭に巻き、首にもタオルを巻いた。
そして、両手で自分のお顔をパンと叩いて気合いを入れる。
気持ち入れ替えなきゃ、って自分に言い聞かせるようにね。
でもさ、脚立に跨って作業してるおっちゃんの背中を見た瞬間、
「え、え、え、な、な、な、何てぇっ!?」
せっかく入れた筈の僕の気合いが、木っ端微塵に砕け散って、ついでに僕の腰も砕けた。
「ど、どうして? 今週いっぱいはお仕事お休みするって…」
「お前なんかいたって、クソの役にも立たねぇからな…」
ク、ク、クソって…、あんまりじゃない?
僕だってこれでも頑張ってるつもりなんですけど?
「それによォ、お前みたいな奴のために、遠路はるばる会いに来てくれたんだろうが…。何のお構いもしないで、このまま突き帰せるかってんだ…」
あ…、もしかして父ちゃん、僕のためにわざわざ?
でもごめんね?
もう終わったんだ。
もっと時が経てば、もしかしたらまた“お友達”に戻れるかもしれないけど、今はまだ無理なんだ。
「いいよ、もう帰って貰ったから…」
僕は父ちゃんに無理矢理作った笑顔を向けると、腕捲りをしてから、ロール状になったクロスを肩に担いだ。
最初は重過ぎて、肩が抜けるかとも思ったけど、今ではすっかり…とは言わないけど、ちょっとは慣れて来た。
僕は肩に担いだクロスを、父ちゃんが跨った脚立の下に置くと、今度は専用のボンドが入ったバケツを運んだ。
そうだよ…
こうして何かに没頭してれば、そのうち翔くんを好きだったことも忘れられる筈。
だから今はこれで良いんだ、って…
それで良いんだ、って…
そうしなきゃいけないんだ、って…
必死でそう思おうとした。
なのに、突然降り出した雨に、窓の外に目を向けた瞬間、
「なん…で…?」
僕の手から、工具の入ったケースが滑り落ちた。