第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
「そうね…、まあ歳も歳だから、暫く入院することにはなりそうだけどね…」
母ちゃんが僕から離れて、ベッドに横たわる父ちゃんの元へと歩み寄る…
ってゆーか、母ちゃん…今なんて言った?
入院がどうとか言わなかった?
「え、え、ね、ねぇ、入院って…?」
僕の聞き違い?
いや、でもそんな筈は…
僕は両方の耳を指でほじった。
すると、父ちゃんのお布団をかけなおした母ちゃんが、今度は床に散らばった洗濯物を拾いながら、プッと吹き出した。
「アンタ何言ってんの?」
「え、だって父ちゃん、死んじゃったんじゃ…」
「馬鹿ね、自転車で坂道転げ落ちたくらいで、この頑固親父がそう簡単にくたばると思ってんの?」
へ…?
嘘…、じゃあ父ちゃんは…
「生きてる…の?」
多分、自分でも分かるくらい、間抜けなお顔をしていたんだと思う。
母ちゃんが、呆れたとばかりに肩を落とした。
「生きてるに決まってるでしょ…」
「え、だって電話で泣いてたじゃん…」
姉ちゃんに電話した時だって、電話の向こうで母ちゃんの泣き声が確かに聞こえたもん。
「ああ、あれは…、ほら、私だってこう見えて意外と弱いところあるじゃない? 取り乱すことだってあるわよ」
そう言って照れくさそうに落とした肩を竦める母ちゃん。
僕にはとてもそうは見えないけど…、と言おうかとも思ったけど、やめた。
だって僕分かるもん、”女心ってやつがさ。
ま、僕の場合は”HIME心”なんだけどね(笑)
それにしても…
「良かった…、僕てっきり…」
ホッとしたせいか、急に全身の力が抜けたようになってしまって、僕はその場にへなへなと座り込んだ。
その様子を見ていた母ちゃんが、流石だよね?
「アンタ、まさかおかしなこと想像してたんじゃないでしょうね?」
まるで僕の心の中まで見透かすような目で僕を見下ろし、両手を腰に当てた。
ってゆーか、母ちゃん怖い…よ?