第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
壁に貼られたプレートを一つ一つ確認しながら廊下を進む。
すると、突き当たりを曲がった所で、背中を壁にもたせ掛け、廊下に立つ姉ちゃんの姿を見つけた。
「姉ちゃん…」
僕は姉ちゃんに駆け寄ると、姉ちゃんがそうされるのを嫌うことを知りながら、姉ちゃんをギューッと抱きしめた。
「え、ちょっと、さと…し…?」
「姉ちゃん…、僕…」
不思議なんだけど、姉ちゃんの顔を見た瞬間、それまでピーンと張り詰めて居た緊張の糸が切れてしまったのか、ずっと堪えていた涙がブワーッと…、堰を切ったように溢れ出した。
「僕…、いっぱい話したいことあったのに…。それから謝らなきゃいけないことだって、いっぱいあったのに…」
きっと僕の話なんて聞いてもくれないだろうけど…
それでももっと話したかった。
あの頃は、僕もまだ幼かったし、父ちゃんのことなんて全然理解できなかったけど、今なら少しは分かるような気がするから…
でももう父ちゃんは…
「姉ちゃん、父ちゃんは…?」
死に目には会えなかったけど、せめて少しだけ大人になった僕を、父ちゃんに見て貰いたい。
「そこの部屋…だけど?」
「ありがと…。僕、会ってくるね…」
「あ、う、うん…、それが良い…わね…」
僕は姉ちゃんから離れると、手の甲で涙を拭ってから、病室のドアノブを握った。
スッと息を吸い込み、ゆっくりとドアを開けると、部屋の中央にポツンとベッドが置かれていて…
そこに横たわる父ちゃんの姿が目に飛び込んで来た。
「父ちゃ…ん…」
僕は父ちゃんに駆け寄ると、昔よりも一回りは小さくなったように見える身体に縋り、乱暴に揺すった。
「父ちゃん…、どうしてこんなことに…!」
僕はそこが病院だと言うことも忘れ、声を上げて泣いて、
「勝手に嫌いとか言って、ごめ…なさい…」
これまでの僕を詫びた。
そしてこれまで滅多に触れる事のなかった父ちゃんの指に、そっと自分の指を絡め…
「えっ…?」
あ…れ…?