第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
なのに松本さんは、僕を責めるわけでもなく、白い歯をキランと光らせると、また僕の髪をクシャッと掻き混ぜて、
「まだ時間かかるから、少し寝とけ」
これまで聞いたこともないくらい、優しい声で言った。
「でも…」
そうは言われても、人に運転させといて(しかも相手は“あの”松本さんだし…)、自分だけ寝るとかさ、やっぱり出来ないよ。
なんたって僕はプー太郎さんだし…
「いいから寝とけ。つか、お前さっきから謝ってばっかだな」
「すいません…」
だって仕方ないじゃん?
実際、迷惑…ってわけじゃなけど、お世話かけちゃってるのは事実だし…
「俺のことは気にしなくて良いから…」
そうは言われても、やっぱり…ねぇ?
「俺もお前には済まないことしたと思ってるから…」
え…?
松本さんが…僕に…?
何で?
「翔のこと…、別に他意があってのことではないにしろ、まさかこんなことになるとは思ってなかったから…」
「それは…、もう気にしてませんから…。それに僕、もう翔くんのこと、ちゃんと忘れましたから…」
正確には、忘れる努力をしている最中だけど…
「お前、それ本気で言ってる?」
え….?
「本気で翔のこと忘れられんのか?」
さっきまであんなに優しかった松本さんの口調が、心做しか厳しくなったような気がする。
勿論、僕の気のせいかもだけど…
「それは…。でも、もう会うこともないだろうし…。いつまでも引き摺ってたって、仕方ないじゃないですか…」
ずっと同じ場所で立ち尽くしているより、ちゃんと前に進みたいから…
そのためには、翔くんのことは忘れた方が良いんだ。
「それに、翔くんとは何もなかったし…」
お触りくらいは…お互いにしたけど、それ以上のことはしてないし…
「何もなかったって…、セックスしてない…ってことか?」
「ま、まあ…」
改めてセックスとか言われると、ちょっと照れちゃうんだけど…