第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
マンションの前に立ち、松本さんの到着を待つ。
気持ちが焦っているのに、時間が過ぎるのはやけに遅く感じられて、待つ時間が焦れったくなる。
普段は絶対そんなことないのに…
僕はスマホと車道を、繰り返し交互に見た。
そして、
「待たせたな」
電話を切ってから丁度10分後、僕の目に紫色のスポーツカーが停った。
ってゆーか…、派手…(笑)
「乗れ」
「は、はい…」
僕は車道側に回ると、助手席(左ハンドルなの♪)のドアを開け、車に乗り込んだ。
…ってゆーか、上に開くドアって初めて見たかも…
相葉さんもそうだけど、こんな凄い外車…AV男優さんてそんなに儲かるもんなの?
「で? どこに向かえば良い?」
「あ、えと、これ住所です」
僕は予め住所をメモしてあった小さな紙を松本さんに差し出した。
すると松本さんは、装備してあったナビに住所を入力してセットしてから漸く僕を振り返り、
「この時間だと、高速を使ったとしても、到着時間にそう差はないが…、急いだ方が良さそうだな」
シートベルトをキュッと握った僕の髪をクシャッと掻き混ぜた。
もしかして…、僕のこと気遣ってくれてる?
和も相葉さんも、それから松本さんもだけど、本当に皆優しい。
だからついつい甘えてしまうんだけど…
「あ、あの…、急に呼び出したりして…すいません。忙しかった…ですよね?」
夜なのに色の濃いサングラスをかけ、真っ直ぐ前を向いてハンドルを操る松本さんに、僕も同じく真っ直ぐ前を向いたままで頭を下げた。
「いや、丁度帰る途中だったから…」
「でもお仕事だったんでしょ?」
和が言ってたもん。
どんなお仕事かは知らないけど、隣のスタジオで松本さんが撮影してた、って…
「まあな…」
「なんか…、ごめんなさい。無理言っちゃって…」
きっと疲れてるだろうに…
なんか本気で申し訳なくなってきちゃったよ…