第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
母ちゃんは電話の向こうで泣いているようだった。
いつもニコニコしていて、怒るとチョウが付く程怖かったけど、僕の前で泣き顔なんて、ただの一度だって見せたことがなかった。
その母ちゃんが泣くってことは、父ちゃんの身に何かがあったからに違いない。
僕は、
「と、とりあえず何とかしてそっち行くから…」
宛なんて全然なかったけど、とにかく母ちゃんを落ち着かせなきゃと必死だった。
ただ、車もなければ、免許も持っていない僕が可能な移動手段と言ったら、自転車くらいしかなくて…
自転車で行ったとしたら…
考えるのも嫌になるくらいの時間がかかってしまう。
僕は悩んだ挙句、和に電話をした。
何だか分からないけど、実家で何かあったらしい、って…
でもそーゆー時に限って、上手くいかないってゆーか…
和も相葉さんも、撮影が思いのほか長引いてるみたいで、すぐには動けないとのことだった。
勿論、動けたとしても、お仕事終わりで疲れてるだろう和や相葉さんを、僕の都合で足に使うなんて、僕には到底出来ないことなんだけど…
僕は和にお礼だけを言うと、少し考えてから、今度は松本さんに電話をかけた。
正直、松本さんとは和や相葉さん程親しいってわけでもないし、翔くんとのこともあったから、ちょっぴり気まずさもあったんだけど、そんなことも言ってられなかった。
そしたら松本さん、
「分かった、すぐ行くから…そうだな、10分後にはそっちに着くから、下で待ってろ」
って言ってくれて…
僕はスマホと、鍵、それから財布だけを持って部屋を出た…けど、すぐに引き返した。
最悪なことは考えたくないけど、もしも…ってことになれば、何日かは向こうに行っていることになる。
僕はリュックに二、三日分の着替えと、当面の生活費にと下ろしてあったお金の入った封筒を詰め込み、マンションのエントランスへと降りた。
良かった、まだ来てない…