第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
とは言え、思いがけない大金が入って来たからって、そういつまでもプー太郎さんのままでいるわけにはいかない。
僕は新しい生活にも慣れて来た頃、新しいバイトを探すべく、求人情報誌を何冊か買い込み、テーブルの上に広げた。
ページを捲り、僕にも出来そうな職種の求人にチェックを入れて行く…けど、なかなか思うようなバイトはなくて…
「どうしよっかな…」
両腕を枕に、ラグの上にゴロンと仰向けになった。
その時、ソファーの上に置きっぱなしになっていたスマホが、繰り返し震えた。
電…話…?
誰から…?
滅多にかかってくることのない電話に、若干の不安を感じながらも、仰向けのままでスマホに手を伸ばした。
そして、スマホの画面に表示された名前を見た瞬間、僕はテーブルを蹴り倒す勢いで飛び起きた。
だって何年ぶり?
高校を卒業してからだから、かれこれ五年?
その間、一度だって連絡をくれたことも、僕から連絡をしたこともなかったのに、急にどうして…?
僕は恐る恐るスマホの通話ボタンをタップすると、スマホを耳に当てた。
「もし…もし…?」
声が掠れて、スマホを持つ手が震えた。
それでも僕は、
「ど、どうしたの、急に電話なんて…」
務めて普通を装い、電話の向こうにいる人に話しかけた。
でも返事がすぐに返ってくることはなくて…
きっと僕と同じように、あんまり久しぶりだから緊張してるんだろうと、勝手にだけど想像していた。
だからちょっとくらい沈黙が続いたって、別に不思議なことはないんだって…
でもそうじゃなかった。
「お父さんがね…」
耳に当てたスマホから聞こえて来た声は、酷く…僕以上に酷く掠れていて、泣いているようにも聞こえた。
「父ちゃんが…どうしたの?」
僕が聞き返しても、返事すら返せない様子で…
「えと、あの、今から行くから…」
家の鍵と、財布をボケットに捩じ込み、玄関のドアを開けた所で、僕はふと気付く。
この時間じゃ、バスはおろか、電車だって走ってないじゃんか、って…