第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
結局、僕は社長さんからの、ありがた過ぎるプレゼントを断ることが出来ず…
長瀬さんが送ってくれることを良いことに、和のマンションへ送って貰うことにした。
だってさ、いくら中身はハンバーガーって言ったってさ、こんな大量には持ち歩くのだって大変なんだもん。
おかげで楽チンだったけどね♪
「じゃあ、また何かあれば連絡する」
「はい。あ、あの…、色々お世話になりました」
もしあの時、長瀬さんが僕に声をかけてくれなかったら、僕はHIMEとしてみんなに愛されることもなかったし、大変なこともあったけど、僕自身“HIME”として別の人生…って言ったら大袈裟かもだけど、凄く楽しめたから…
だから長瀬さんにはいくらお礼を言っても足りないくらいだ。
「あ、でもまた会えるよね?」
「さあな、俺もお前の担当外れることになるし、今までみたいにはいかんだろうな」
うん、それは僕だって分かってる。
でもさ、
「僕、斗子さんの“娘”なんだしょ? だったらさ、長瀬さんの“娘”でもあるわけじゃん?」
本当はもうちょっとこざっぱりした人が良いけど、長瀬さんだったら、少々むさ苦しくたって許せちゃう♪
「馬鹿なことばっか言ってないで、さっさと行け」
ふふ、見た目に反して照れ屋さんなとかも、僕は嫌いじゃない。
「うん。あ、これ…、三人でも絶対に食べきれないだろうから、長瀬さんにもお裾分けね♪ “ママ”と食べてね、“パパ”♡」
僕は袋の中からハンバーガーを五つ取り出すと、無人になった助手席に並べた。
そしてドアを閉めると、HIMEスマイルならぬ智スマイルで手を振り、大急ぎでマンションのエントランスに駆け込んだ。
だって“いらない”って突き返されたら困っちゃうもん。
いつまでも発進しない車を視界の端に入れながら、和の部屋の番号をプッシュする。
すると、数秒も待つことなくドアが開き、僕はもう一度長瀬さんの車を振り返り、手を振ってからエレベーターホールへと向かった。
全く会えなくなるわけじゃない。
でもちょっぴり寂しかった。