第5章 日常2:彼
「えっ…と…、今、何て言った…の?」
僕は床に散らばったDVDを拾うことも出来ず、思いっきり顔を引き攣らせたまま、櫻井君を見つめた。
そんな僕を横目に、櫻井君はカウンターから飛び出し、僕の足元のDVDを掻き集めてから、カウンターの上に積むと、僕の目の前で手をヒラヒラとさせた。
「起きてる?」なんて言いながらさ…
いや、起きてるよ?
起きてるけどさ…
まさか…だよ…
「えっと…、誰の何が入って来る…つて…?」
「だからさ、HIMEちゃんだよ。HIMEちゃんのこれまでの出演作品が、ほぼ全タイトル入って来るらしいんだよ」
ほ、ほぼ全タイトルって…
確か僕がこれまで出たのって、オムニバスも含めると…、えっと…
僕は心の中で指を折って数えてみるけと、途中で断念した。
だってそんなの僕自身も把握してないんだもん…
「しかもさ、話題作のコーナーに置かれるらしくてさ、俺超楽しみでさ♪」
「へ、へ、へ、へぇ…、そ、そ、そ、そう…なんだ…?」
僕の…いや“HIMEの”なのか…?
ううん、そんなことこの際どっちだって良い!
そりゃね、売れてることは長瀬さんからも、事務所の社長さんからも聞かされてはいたよ?
でもそれは所謂“そっちの世界”だけの話しで、こんな一般大衆(←言い方古っ!)が訪れるような、チェーン展開しているレンタルビデオ店に置かれるなんて…
それも堂々とパッケージ平置きで、なんて…
僕、聞いてないよ…
「そ、それで櫻井君はさ、当然…?」
「借りるよ?」
だよね…、そうだよね…?
僕知ってるもん、櫻井君が僕のデビュー作でもある「HIME、降臨♡」をレンタルしてること…
一度や二度じゃなく、何度も…
嬉しいよ?
嬉しいけどさ、何だか複雑。