第5章 日常2:彼
「櫻井君てさ、大学出てんでしょ?」
返却されたDVDをバーコード処理しながら、一本一本丁寧過ぎる程入念にチェックする櫻井君に聞いてみる。
ってゆーかさぁ、そんな何回も何回もチェックしなきゃなんない程、僕って信用ないわけ?
「うん、まあね…。でも何で?」
「特に意味はないんだけど、何か…勿体ないな、って思ってさ…」
僕なんて、いくら自分の才能の無さに失望したからって、あんなに…僕の人生の中で、それこそこれ以上はないってくらい、超超超頑張って漸く入った大学だったのに、一年も経たずに退学したことを、今になって後悔してるっていうのに…
「勿体ない…のかな?」
「そうだよ。だってさ、四大まで卒業したんだったらさ、けっこう良いとこ就職できたんじゃない?」
何もこんな時給だって安いレンタルビデオ店のバイトなんかしなくたって、おっきな会社に就職すれば、お給料だって今より遥かに多く貰えるのに…
「そうなんだけどさ…。なんつーか、反抗期みたいなモンかな(笑)」
「ふーん…、僕には良く分かんないや…」
大学まで出て、レンタルビデオ店でバイトすることが反抗期とか…
やっぱり櫻井君て謎だ。
「そんなことよかさ、来週入荷予定のDVDのリスト見た?」
「ううん…、僕はまだ見てないけど…」
ってゆーか、今までも店長には見とくように言われてたけど、実際一度も見たことないかも…
大体僕、レンタルビデオ店でバイトしてるわりに、映画とか全然興味ないんだよね…
ほら、僕ってすぐ眠くなっちゃうからさ(笑)
でも“一応”先輩でもある僕だから、後輩の櫻井君の前で言い訳なんて出来ないよね。
「リストの中に何か気になる映画でもあった?」
僕はチェック済みのDVDを纏め、持てるだけ手に抱えてから、カウンターに立つ櫻井君を振り返った。
まさかその数秒後に、僕の手から大量のDVDが滑り落ちることになるなんて、思いもせずに…