第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
座り心地(寝心地とも言う)抜群なソファに胡座をかき、大好きなパイナップルジュースを傾けていると、
「ユー、何でテレフォンしてくれないの?」
「いや、しましたけど…」
事務所の方から、英語混じりな社長さんの声と、呆れ口調の長瀬さんの声が聞こえて…
僕は思わず口に含んだパイナップルジュースを吹き出しそうになってしまう。
だってさ、携帯忘れてったの社長さんなのに、長瀬さんが怒られてんだから、おかしいよね(笑)
まるで親子みたい…って言ったら、二人共怒るかな?
僕は胡座をかいていた足を床に下ろすと、左右バラバラになっていたギョサンを履いた。
ふふ、ギョサンってさ、楽で良いんだよね♪
ただ、日焼け後は最悪だけど…
ちょっぴり畏まって待っていると、社長室のドアがパーンと勢い良く開いて、
「ソーリー、ソーリー、待たせちゃってごめんよ?」
両手にハンバーガーショップの袋を下げた社長さんが入って来て…
袋をテーブルの上に置くなり、僕のことをギューッと抱きしめた。
「え、あ、あの…」
突然のことに驚く僕に、社長さんはサングラス越しに目を思いっきり細めて、
「実はね、今日ユーを呼んだのはね、これをユーに返そうと思ってね」
僕にクリップで留めた契約書を差し出して来た。
そして“ちょっと待っててね”と言うと、近藤はデスクの引き出しから茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これ…は?」
「これはつまり…何て言うんだっけ?」
「退職金だそうだ」
言葉に詰まってしまった社長さんの代わりに、長瀬さんが答える。
「え、そ、そんな…、僕受け取れないよ…」
だって一応便宜上契約書は交わしたけどさ、僕的にはバイト感覚だったし、辞めるのだって、僕のわがままみたいなもんだし…
僕は封筒に手を伸ばすことなく、首を横に振った。
でも社長さんは強引で…
中々封筒を手に取らない僕に見かねてか、僕の手を取ると、半ば無理矢理封筒を握らせた。