第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
「おはよ…ございます…」
長瀬さんの後に着いて社長室に入る…けど、
「あれ…? 社長さんは?」
肝心な社長さんの姿がどこにもない。
「ったく、またか…」
小さく舌打ちして、長瀬さんが自分のスマホからどこかに電話をかける。
すると…
「ねぇ、これって社長さんの携帯じゃない?」
僕が座ろうとしたソファーの背凭れと座面の間で、チカチカと点滅を繰り返しながら、ブルブルと震える携帯電話を発見した。
「出かける時は携帯持ってけって言ってんのに…」
僕のてのなかでチカチカブルブルする携帯を見て、長瀬さんが”困ったもんだ…”とガックリと肩を落とす。
そして僕に”待ってろ”とだけ言い残して、長瀬さんは社長室を出て行ってしまった。
多分、長瀬さんには社長さんがどこにいるのか、だいたい予想が出来てるんだと思う。
なんたって、僕にでもなんとな~く想像出来ちゃうんだからさ(笑)
僕は社長室に備え付けられた冷蔵庫を物色すると、そこからパイナップルジュースのペットボトルを取り出した。
僕が前にチラッと”パイナップルジュースが好きなんだ”って言ったら、それを覚えていた社長さんが、いつでも飲んで良いからって、僕のために用意しておいてくれた物だ。
社長室に来ると、このパイナップルジュースを飲むのが僕の密かな楽しみ…でもあったんだけど、それももうなくなるんだろうなって思うと、ちょっぴり寂しくもある。
僕はボトルのキャップを開けると、ボトルの飲み口に鼻を近付け、甘くて…でも酸っぱさもあるパイナップルの匂いをクンと嗅いだ。
そしてそーっとペットボトルを傾けると、中の液体を乾いた喉に流し込んだ。
「ぷはぁ~、うまっ。これこれ、やっぱこの味なんだよね~♪」
パイナップルの甘酸っぱさも良いけど、ちょっぴり喉に感じる微炭酸の感じもまた、最高にバランスが良い。
うん、お風呂上りとか、夏の暑い時にはこれが一番かも♪