第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
体調も大分戻り、僕は事務所を訪ねた。
僕がダウンしてる間、何度も連絡をくれてたから…、それも喜多川社長直々にね。
最寄り駅までの迎えは、長瀬さんがしてくれた。
もうHIMEでも何でもない、ただの“大野智”なのにね?
親切にして貰っちゃて、何だか申し訳なくなっちゃう。
それでも、長瀬さんのお顔が見れることが嬉しくて…
前は、無愛想で、いっつも怒ってるように見えたけど、そんな無愛想顔も暫く見ないと懐かしく感じるもんだね?
「あ、ねぇ、斗子さんは? 元気?」
「まあな…。お前のこと心配してたぞ?」
「そっか…、そうだよね…」
あの時、ろくにお礼も言えないままになっちゃったから、ちょっと気になだてたんだ。
「長瀬さんからお礼言っといてよ」
本当は直接僕のお口から伝えられたら良いんだけど、もう僕はHIMEでもなんでもないから、そう簡単に会う訳にはいかない…ど思っていたのに、
「直接言いに行けば良いだろ。アイツも待ってるし…」
「え…?」
意外すぎる答えに、僕は驚いて目を白黒させた。
「娘みたいなんだとさ…。俺にはどうにも理解出来んが…」
「む、娘って…、斗子さんまだ若いのに…」
それに、“妹みたい”とは言われたことあっても、“娘みたい”って言われたのは…初めてかも(笑)
ま、それだけ僕が頼りないってことなんだろうけど、何だかちょっぴり擽ったいや…
「で、今日は何の用事なの?」
「さあな、俺にも分からん」
まあ…、そうだよね…
僕は寝そべる勢いで倒れたシートに深く背中を預けた。
あ、まさか僕の引退取り消し、とか?
それはすっごく困るし、あの社長さんなら言いそうだけど、もしそーゆーお話なら、ハッキリキッパリお断りしなきゃ。
じゃないと、お仕事とは言え、あんな酷い目に合ったことが全部無駄になっちゃうもん。
うん、それだけは絶対ダメだよ。
…って言いながら、流され易いからな…、僕。
しっかりしなきゃだね。