第25章 scene5:チャペル
疲れた…
髪も、お顔も、それから身体も…、汗やら体液やらでドロドロにして放心する僕の周りから、男達が何事も無かったかのように立ち去る。
NINOも、それから松本さんも…
その場に残されたのは、動くことも出来ず、ただ無気力に身体を投げ出す僕と、相葉さんだけで…
その僕達の姿を、カメラが真上から狙う。
その時ふと思ったんだ。
あと一人…、残っていた筈なのに、って…。
でも、
「はい、カットー!」
近藤監督の、撮影終了の声が響いて…
それまで僕を乱暴に扱っていたマスクの男達が、お顔を隠すマスクを外しながら、タオルを手に僕の元へと駆け寄って来た。
そして近藤監督も…
「良く頑張ってたね。お疲れさま」
僕に向かって手を差し出した。
僕は身体を起こすことすら出来ず、その手を握ると、虚ろな視界のまま辺りを見回した。
やっぱりだ。
「あの…、あの人…は…?」
男達がマスクを外ず中、一人だけマスクを被ったままの男が、時折足をふらつかせながら、チャペルを出て行くのが見えた。
「ああ、彼? 彼はたまたま見学に来てたんだけどね、ちょっと穴が空いちゃってね…。それで急遽お願いしたんだよ」
そう…なんだ…?
でもあの歩き方と、あの背中…
どこかで見た気がするんだけど…
ううん、背中ってゆーより、肩のラインが僕の知ってる誰かに似てるような気がする。
僕の…気のせい?
そうだよ、きっと僕の頭がおかしくなってるんだよね?
うん、そうだよ、絶対にそう。
…って思いたかった。
でも思えなかった。
だってあまりにも後ろ姿が似過ぎていたから…
僕の大好きな人、そのものだったから。
「しょ…くん…?」
不意に口をついて出た言葉に、丁度僕の元を取り囲んでいた、相葉さん、松本さん、そしてNINOまでもが、ハッとした表情で、今さっき彼が出て行ったチャペルの入り口を振り返った。