第25章 scene5:チャペル
「まさか…、他人の空似なんじゃないの?」
僕を抱き起こしながらNINOが言う。
でも僕は、
「ううん…、違う…」
大好きな人の後ろ姿を、僕が見間違える筈ないもん。
僕は僅かに残っていた力を振り絞り、NINOを押しのけると、
「僕…、行かなきゃ…」
身体も…、足だって全く力がはいらないのに、彼を追いかけようと、真っ赤な絨毯の上を、まるで這うようにして、チャペルの入り口を目指した。
どうして追いかけようと思ったのかは…、正直分からない。
でもどうしても追いかけなきゃって…思った。
そしてチャペルの外…、多分桜の木だと思う、その下で項垂れ、肩を揺らす後ろ姿を見た瞬間、僕は何故だか声をかけるのを躊躇った。
今声をかけたら“終わる”って…、不思議なんだけどね、予感がしたんだ。
僕は声をかけることなく、その場を立ち去ろうとした。
何より、こんな姿を彼に見られたく無かった。
もう…手遅れだけど。
なのに…
僕が踵を返したその時、
「本当はさ…」
いつもと違う、ちょっぴり鼻にかかった声が聞こえて、僕は足を止めた。
「最後の撮影だって聞いたから、“お疲れさま”って…さ、花束でも渡して帰ろうと思ったんだ」
振り返ることなんて出来なかった。
「でもごめんね? 俺、結局言えなかった」
いいよ、気にしないで、って…
HIMEらしく笑顔で言いたかった。
でも言えなかった。
笑顔さえ作ることが出来なかった。
僕は翔くんを振り返ることなく、首を横に振った。
それが僕に出来る、精一杯だった。
そして、
「でも言わなきゃね、ちゃんと…。ありがとう、それから…お疲れさま、智くん…」
そう言われた瞬間、全身の血がサーッと音を立てて引くような気がして…
どうして…?
いつから気付いてたの…?
聞きたいことが頭の中をグルグルし始め…
気付いた時には、僕の目の前が真っ暗になっていた。
『 チャペル 』ー完ー