第5章 日常2:彼
DVDを手に硬直する僕に、櫻井君が言ったんだ。
「可愛いですね」って…
僕は櫻井君が何を言ってるのか分からなくて、一瞬考えた後、周りをキョロキョロと見回した。
でも僕達の周りには誰もいなくて…
もしやと思った僕は、手に持っていたDVDを指差して、
「この子…のことかな?」
恐る恐る櫻井君に聞いてみた。
そしたら櫻井君…
僕の手からDVDを取り上げると、パッケージをマジマジと…そりゃ真剣な目で見てから、どんぐりみたいにまん丸な目を細め、ぷっくりとした唇の両端をニンマリと持ち上げた。
「俺、けっこう好みかも…」
嘘でしょ…?
だってその子は“僕”なんだよ…、なんてとても言える筈もなく…
「へ、へ、へぇ…、櫻井君てそうゆうのが好きなんだ?」
必死で平静を装って見せた。
声はかなりびっくり返ってたけどね?(笑)
「で、で、でも、その子って、実は男の子なんでしょ?」
櫻井君が目を♡にして見つめている“HIME”の正体は、今櫻井君の目の前にいるこの“僕”なんだから…
「男のくせに女の格好とかしてて、気持ち悪いとか思わないの?」
普通の人なら当たり前にそう思う筈…
でも櫻井君はそれまでニヤケ顔だったのを急に引き締め、
「それって偏見でしょ? 女装した男だろうが、本物の女だろうが、可愛いモンに違いはなくない?」
若干キツめの口調で言うから僕も、
「そ、そうだよね…、ごめん…」
どうしてだか謝ってしまう。
そしたら櫻井君が急に慌て出して…
「あ、俺の方こそごめん。“一応”先輩だし、“一応”年上なのに、偉そうなこと言っちゃって…」
なんて言いながら、僕に向かって軽く頭を下げた。
ってゆーかさ、“一応”って何、“一応”って(笑)
でもそのやり取りのおかげで、絶対気が合わないと思ってた僕達の距離は、急激に縮まっていった。