第25章 scene5:チャペル
「や、やめろっ!」
相葉さんが叫ぶが先か、僕の手が掴まれるのが先か、どっちか分からないうちに、僕は赤い絨毯の上に引き倒されていて…
「は、放せ…っ!」
いつの間に現れたのか、松本さんが抵抗する相葉さんを羽交い絞めにしている。
「どう…して…? どうして彼が…?」
「知りたい? 彼がどうしてここにいるか…」
NINOが、ついさっきまで相葉さんの顎先に宛てていたナイフを、今度は僕の胸元に宛て、憎悪に満ちた目で僕を見下ろす。
そして口元を微かに歪めると、胸元に宛てたナイフを僕のドレスの中に差し込み、
「彼ね、実は私の兄なの。もっとも、血は半分しか繋がってないけどね?」
不気味に笑った。
「そんな…」
驚いたのは僕だけじゃない。
松本さんに羽交い絞めにされた相葉さんも、酷く驚いたような表情を浮かべている。
「で、でも、どうしてこんな…」
声を震わせ、その場から逃れようと後退りをする僕の顎先を、まるで血が通っていないようにも思えるくらい、冷たい指先が捉える。
「さっきから”どうして、どうして”って…、いい加減しつこいのよ。いいわ、教えて上げる。この人が私に何をしたのか…、私がどんな風に捨てられたのか…、あなたにも同じことをしてあげる」
言うが早いか、ドレスの襟がナイフで切り裂かれ…
「や、やめ…て…」
怖い…
お芝居だってことはちゃんと分かってる。
でも、心の底からNINOが怖いと思った。
逃げなきゃって…そう思ってるのに、身体は全然言うことを聞いてくれなくて…
「い、いや…、ねぇ、助けて…」
縋るように相葉さんに目を向けるけど、相葉さんは咄嗟に僕から視線をそらしてしまう。
そして一言…
「ごめん…」て…
ねぇ、その「ごめん」は誰に向けた言葉なの?
僕…、じゃないの?
諦めにも似た感情がこみ上げて来て、相葉さんを見つめる目から涙が零れ落ちた。
お芝居…とか、全然関係なくて、ただただ涙が勝手に溢れて、止まらなかった。