第25章 scene5:チャペル
詰め寄る僕に、NINOが「慌てないで」と、僕の手を握る。
そして、
「こんなに震えちゃって…。ごめんね? ちゃんと話さなきゃって思ったんだけど、監督からも事務所からも口止めされてて…」
握った僕の手を、自分の頬に宛てた。
「え…?」
口止めって何?
そりゃさ、僕も”あえて”共演者のお名前は聞いたりしてこなかったし、当日になってのお楽しみ的な感じでもいたけどさ…
でもお友達なら話は別でしょ?
「私もね、最初このお話頂いた時、お断りしようと思ったのよ? 近藤監督とは以前にもお仕事したことあったから、ギリギリまで直接掛け合ってもみたんだけど、結局押し切られちゃって…」
「そう…だったんだ…?」
あ、もしかして…
僕がこの間マンションにお邪魔した時、やけに不機嫌だったのって、もしかしてこのことが原因だったの?
そんなことも知らずに僕、NINOのこと責めるようなこと言っちゃったかも…
「なんか…、僕もごめんね? 全然知らなくて…」
「ううん、気にしないで? でもね、一度受けた仕事だから、友達とか…そういう私情みたいなのは抜きにして、真剣に向き合わせて貰うけど、HIMEちゃんはそれで良い?」
「うん…」
そうだよね…、NINOだって本当は受けたくなかったお仕事なのに、受けざるを得ない状況だった、ってことだもんね?
きっとNINOだけじゃなく、相葉さんや松本さんも今のNINOと同じ思いでいるんだろうね?
それでも一度受けたお仕事だから、って真剣に向き合おうとしているのに、僕がこんなじゃダメじゃん…
でもさ、頭ではちゃんと分かってても、やっぱり話して欲しかったな、って思っちゃうのは僕のわがままなの?
「さ、そろそろ戻りましょ? 近藤監督って、ああ見えて意外と時間には煩いのよ?」
「そうなの?」
全然そんな風には見えなかったけど、長瀬さんもそうなんだけどさ、ちょっぴりむさ苦しくて暑苦しそうな人って、見た目に寄らず案外時間とかキッチリした人が多いのかも?
“自分調べ”でしかないけどね?(笑)