第25章 scene5:チャペル
「それじゃ早速…」
着ていたジャケットを脱ぎ、真っ黒なTシャツと、ピッチピチのジーンズ姿になった近藤監督が、お尻のポケットから丸めた台本を取り出す。
けど…
「ちょっと待って?」
そんな近藤監督に向かって、NINOがストップをかけた。
「ちょっとHIMEちゃんとお話がしたいんだけど…、ダメかしら?」
「HIMEと…? どうして?」
「HIMEちゃん、とっても緊張してるみたいだし、このまま撮影を始めても、きっとNGの連発になりそうで…。だからちょっとリラックスして貰いたくて…」
「お姉…ち ゃん…」
確かにNINOの言う通りだ。
僕、未だかつてないくらい、緊張してる。
心臓はお口から飛び出そうだし、ドレスで見えないけど、足だってガクガク震えている。
でもこの緊張は、ただ撮影がどうとかってことじゃなくて、ここに三人がいることの意味が分からないからだ。
「諸々設営が済むまでの間…、十分だけだぞ?」
腕時計と睨めっこしながら、近藤監督が仕方ないとばかりに息を吐き出す。
「ありがとうございます。HIMEちゃん行こ?」
「う、うん…」
NINOに腕を引かれ、慌ててドレスの裾を摘んだ僕は、やっぱり何度も躓きそうになりながら、それでもNINOの後を追いかけた。
チャペルの外に出ると、そこには僕が想像していた以上に森が広がっていて…
なんだかお伽噺に出て来そうな雰囲気に、僕はまた夢心地に陥りそうになる。
だめだめ…、どうして三人がここにいるのか、ちゃんと聞かないと…!
僕はスっと息を吸い込むと、
「ねぇ、三人がどうしてここに…?」
僕は気になっていたことを口にした。
「勿論、お仕事のためよ?」
うん、それは三人の出で立ちを見れば、いくらおバカさんな僕だって分かるよ?
でも問題はそんな事じゃないんだ。
「どうして? ねぇ、どうして教えてくれなかったの?」
ねぇ、どうして…?