第25章 scene5:チャペル
「ねぇ、見て?」
斗子さんに言われて、俯いていた顔を上げると、
「うわ…ぁ…」
想像していたのとは全然違う、“いかにも”な雰囲気の部屋の造りに、僕は思わず声を上げた。
斗子さんのサロン程豪華ではないけど、大きな鏡と、それとは別に姿見もあって、床には赤いカーペットまで敷いてあって、壁のフックには、僕が着る予定のウエディングドレスもちゃんとかかっている。
良かった…、僕騙されたわけじゃないんだ♪
ホッとした僕は、早速お顔を覆っていたストールを外し、鏡の前に置かれた肘掛のある、ゆったり大きめな一人がけの椅子に腰を下ろした。
ふふ、クッションフワフワで、座り心地最高♪
「必要な物は全部揃ってる筈だ。後は任せる」
「分かったわ」
長瀬さんが斗子さんの肩をポンと叩き、僕達が入って来たのとは別のドアを開き、部屋から出て行くと、
「さ、始めましょうか?」
その背中を見送った斗子さんが、鏡越しに僕に微笑みかけるから、
「お願い…します」
僕も鏡越しに斗子さんに向かって頭を下げた。
ウィッグを外され、キッチリと纏められた髪に、ネットが被せられると、ほんのちょっと…だけど、緊張感が高まって来るのを感じた。
お顔と、それから首からデコルテ部分までしっかりファンデーションを塗られ、順番にメイクが施されて行くのを鏡越しに見ていると、徐々に僕が“僕”でなくなって行くのが分かって…
アイメイクを終えたところで、そっと瞼を閉じた僕は、いつも撮影前にしているのと同じように、自分自身に魔法をかけた。
僕はHIME…
彗星の如く現れた、ゲイビ界のスーパー男の娘アイドルのHIMEなんだ、と…
そして、
「出来たわよ? 後は着替えね?」
斗子さんに言われて瞼を開けた瞬間、僕は鏡に写った自分の姿には目を向けることなく静かに立ち上がり、着ていた服を、何の躊躇いもなく全部脱ぎ捨てた。