第25章 scene5:チャペル
まるで母ちゃん(…はちょっと言い過ぎ? 失礼?)みたいな斗子さんの温もりに包まれ、やる気マックス状態までチャージした僕は、
「着いたぞ、降りろ」
長瀬さんが言うのと同時に開いたドアから、勢い良く飛び降りると、“ヨシっ!”とばかりに両手に拳を握り、一人こっそり気合いを入れた。
「こっちだ」
長瀬さんの案内で建物の中に入る。
聞いてた通り、そこにはスタッフさんはおろか、人っ子一人いなくて…
なんだ、こんなことなら…と、キャップを外そうとしたら、斗子さんに止められた。
「智也が言ってたでしょ? どこで誰が見てるか分からないって…」
でもさ、せっかくの新しいウィッグに、キャップの跡が付いちゃうの嫌なんだもん…
僕が唇を尖らせていると、斗子さんが“しょうがないわね”って言って、首に巻いていたストールを解き、僕の頭にフワリとかけた。
「え…?」
「これなら、キャップを外しても顔は見えないでしょ?」
「う、うん、ありがと…」
やっぱり斗子さんは優しい。
長瀬さんとは大違いだ。
僕はキャップを外すと、斗子さんの匂いがたっぷり染み込んだストールでお顔の半分を覆い、一人足早に先を歩く長瀬さんを追った。
それにしても、撮影場所は教会だって聞いてたけど、今のところそれらしい雰囲気は全然感じられなくて…
本当にここで合ってるのか、ちょっぴり不安になってしまう。
だってさ、この業界にいると良く聞くんだよね…
聞かされてた場所と全然違う場所に連れて行かれた挙句、とんでもなく酷い扱い受けた、とかさ…
だからもしかして僕も…、なんて不安に思っていると、
「ここだ、入れ」
突然足を止めた長瀬さんが、廊下の突き当たり手前の一室のドアを開けた。
「入りましょ?」
「うん…」
僕が不安に感じていたのが分かったのか、斗子さんが僕の手を引いて、先に部屋の中へと足を踏み入れた。