第25章 scene5:チャペル
「そう…なのね…」
そう言ったきり何かを考え込むような素振りを見せる斗子さん。
僕、何か変なこと言ったっけ?
心配に思っていると、斗子さんがすっごく真剣なお顔をして、
「じゃあ今日もこの車の中で…ってことになるのかしら?」
不安そうな声を上げた。
「さあ…、それは僕には…」
僕が返事に困っていると、助手席にいた長瀬さんが振り向いて、
「心配するな。今回に限っては、衣装もメイクも特殊だってことで、特別に控え室を設けて貰ってるし、裏口から直で入れるよう手配はしてある」
僕の代わりに答えた。
「そう…、なら安心だわ…」
「まあな…。ただ、どこに人の目があるかは補償は出来んから、一応ヅラだけは被っとけよ?」
ヅ、ヅラって…
もっと他にも言い方あるだろうに、“ヅラ”って…
もぉ…、色気もへったくれもないんだから。
まあでも長瀬さんらしいけどね(笑)
僕は長瀬さんに言われた通りに、元々自分で用意していたウィッグを取り出すと、キャップを被っていたせいでぺしゃんこになった頭に直接被った。
以前NINOと共演した時、NINOの黒髪サラサラロングの髪に憧れて、後から購入した物で、ただ色だけはどうしても僕的に黒はなかったから、濃いブラウンにしたんだけどね。
でも、普段の僕よりか、ほんのちょっとだけど大人びて見えるから、お気に入りなの♪
それにさ、今日の服…適当な服を引っ掛けただけなんだけど、それとも合ってるような気がするしね?
ただ、足元がギョサンなのは残念だけど(笑)
「これで良い?」
「ふふ、HIMEちゃんて不思議ね? ウィッグ一つでこんなにも印象が変わるなんて…。とっても素敵だわ」
「そ、そうかな…」
なんだか、斗子さんみたいな美人さんに褒められると、ついつい嬉しくなっちゃう♪
「あ、そうだわ。せっかく時間に余裕もあることだし、ベースメイクだけ先に済ませておきましょうか?」
「はい」
そうだよね、そしたら現場に着いてからの仕事、ちょっと楽になるもんね?