第25章 scene5:チャペル
いつもと同じように、いつもと同じ場所に、城島さんの運転する車で迎えに来て貰い、車に乗り込んだ僕は、いつもなら無人の筈の後部座席に人影を見つけた瞬間、どうしてだかそれまで張り詰めていた緊張が、プツッと音を立てて切れたような気がした。
だって、一応約束したとは言っても、その場限りの口約束かもしんないし、まさか本当に来てくれるなんて思ってなかったんだもん。
だから、長瀬さんの恋人だってこともすっかり忘れて、思わず飛び着いちゃったんだけど….、驚かしちゃったかな?
でもさ、本当に嬉しかったんだもん。
別に現場はいつもとそう変わりないんだろうけど、やっぱりこれが最後の撮影ってなると、気分的にちょっと…ね。
多分心細いってのもあったのかな…
それに衣装だってさ、今まで着たことのない物だし、メイクも特別だろうし…
それを考えると、斗子さんが一緒に現場に入ってくれることは、僕にとってはとても頼もしかったりする。
ま、予め用意してくれたスタッフさんには申し訳ないんだけどもね?
でもさ、いくらメイクさん達がプロだって言ったって、それ専門の技術を持っている斗子さんとでは、やっぱりレベルも知識レベルが違い過ぎるんだもん。
「ね、HIMEちゃんはいつもスタジオに入る前にメイクを?」
目深に被った僕の帽子を取り、しっかりすっびんの僕を斗子さんが覗き込む。
「んと、毎回ではないけど、朝が早かったりする場合は、車の中だったり、コンビニのトイレだったり…。あ、も勿論現場に入ってから、ってこともあるけど、大抵がそうかな…」
「まあ…、じゃあ着替えとかも同じように?」
「うん…」
「全部自分で…?」
「う…ん…」
もっとも、余裕のある販売元だと、予めメイクさんが用意されてることもあるけど、それは主に通常のAV撮影現場であって、僕達みたいなマイナージャンルの現場には、殆どと言って良い程用意されるとこはない。
ま、男ばっかだからね…、ある意味必要無いのかも知んないけど…