第24章 scene5:ツルテカな僕
あーあ…、こわな時に長瀬さんがいたら、きっと有無を言わさず…なんだろうけど、残念ながら長瀬さんは駐車場で…
僕は頭を下げたままで、この場をどうやり過ごそうかと、そればっかりを考えていた。
すると…
「あのさ、俺のこと…、覚えてないかな?」
下げた頭の上から言われて、僕は頭を下げたままで小首を傾げた。
「えと…、ごめんなさい、HIME…記憶力弱く…て…」
って、え?
ビックリしたせいで気付かなかっつけど、この声って…まさか?
「俺…、松本潤の従兄弟で、この間撮影現場にもお邪魔した…」
え、え、え、嘘っ…!
だって何で?
何で翔くんがこんな所に…?
ってゆーか、僕どうしたら良いの?
こんな不意打ち、超困るんだけど…
でも、ずっとこのままってわけにもいかないわよね?
それに翔くん、目の前にいるのが“僕”だってこと、全然疑ってないみたいだし…
だったら…
「えっとぉ…、櫻井くん…だったかしら?」
もうHIMEになりきって乗り切るしかないよね?
ってゆーか、なりきらなくても“HIME”なんだけどね?
「嬉しいなぁ、覚えててくれたんだ?」
「ふふ、勿論よ。HIMEのこと好きって言って貰えて、HIME…とーっても嬉しかったんですもの♡」
本当は、“HIME”としての僕じゃなくて、“智”としての僕が…って言って欲しいけど、でも嬉しかったのは嘘じゃない。
外見が違っても、僕を好きだって言ってくれたことに違いはないんだから…
「ところでこんな所で何を?」
あん、それこっちが聞きたかったのにぃ…
「あ、もしかして仕事行く途中なのかな?」
「え、あ、うん、そうなの、これからお仕事なんだけど、ちょっとお腹が空いちゃって…」
僕は咄嗟に適当な嘘をついて誤魔化してみたけど…
ちょっぴり罪悪感。
だって大好きな人に嘘をつくのって、とっても心苦しいんだもん。
分かるでしょ?