第4章 日常1:僕
長瀬さんから名刺と、出演料だと一万円を受け取り、アパートに帰った僕は、ろくに考えることもなく、名刺に書いてあった番号に電話をかけた。
丁度もう一つバイトを増やそうと思ってたのもあるけど、何より気持ち良いことしてお金が貰えるなら、そんな美味しいことはない…なんて、とても安易な考えだった。
バイト感覚…って言ったら良いのかな…、うんそんな感じ。
因みに、その考えは今でも変わってないけどね(笑)
僕は顔を出さないことを条件に、AVへの出演を決めた。
とは言っても顔が映らないようにするのは、不可能ではないんだろうけど難しいことだし、顔が映るか映らないかで、売上だって変わって来るらしく…
売上が伸びれば、当然僕の手に入って来るお金だって増えることになるわけで…
ただ、素顔のままで…ってのは流石に抵抗があったし、もし友達や親に知られたら…って思ったら、やっぱり顔だけはどうにかして隠しておきたかった。
僕は考えた。
どうしたら“僕”だって気付かれることなく、AVに出られるのかを…
そして辿り着いたのが、たまたまネットで見かけた“男の娘”になることだった。
メイクをしてウィッグを被って、女性用の下着を着け、女性用の服を着る…
それなら、画面に映るのが“僕”だとは誰も思わないだろう、って…
幸い、中退はしたけど元美大生ってこともあって、自分の顔をキャンバスに見立てることで、メイクの技術はすぐ身に付いたし、元々小柄で華奢な身体だったから、サイズとかも考えることなく古着屋で買って…
うん、そこまでは完璧だった。
ただ一つ… 、女性用の下着を除いては…
でもそれも通販を利用することで、難なくクリア♪
僕は初めての撮影の時、長瀬さんと待ち合わせた場所に、「HIME」の姿で向かった。
勿論、「HIME」の姿で部屋を出るわけにはいかないから、着替えやメイクは駅の多目的トイレを利用させて貰ったけどね?(笑)