第4章 日常1:僕
長瀬さん、驚いてたな…(
すっごい無愛想なのに、目ん玉落っこちちゃうんじゃないかってくらいに目見開いちゃってさ(笑)
当然か…
だって長瀬さんからしてみたら、“大野智”が来ると思ってたのに、いきなり“HIME”が現れたら…、そりゃ驚きもするよね。
でも長瀬さん、言ってくれたんだ…
「悪くない」って…
その一言のおかげで僕も、ほんのちょっとだけだげど、自分に自信が持てたんだってけ…
それまでの僕と言えば、外見は勿論のこと、何をするにも自信が持てなくて…
唯一“これなら!”と思った絵も、大学に入ってみたら僕よりもうーんと上手な人がいっぱいで…
自分の駄目さ加減に、ちょっと落ち込んでたんだよね…
でも、長瀬さんがそう言ってくれたことで、僕は自信が無いなりに頑張ろうって思えた。
そうして迎えた、デビュー作(そんな大層なモンでもないけど…)の撮影…
僕はあまりの緊張に、身体はカチコチになるわ、顔だって無表情を通り越した“無”になるわで、監督さんは勿論のこと、その場にいた全員が呆れ顔で首を横に振った。
使い物にならない、ってね?
ショックだった。
例え素顔をメイクで隠そうと、可愛い服を着ようと、やっぱり僕は“僕”でしかないんだ、って…
僕は「HIME」にはなれないんだ、って…
そう思ったら何だか悲しくなってきちゃって…
でもせっかく“ヤル”と決めてここまで来たんだからと、何とか自分を奮い立たせようと、撮影の合間を縫って僕は鏡の前に立った。
僕はHIME…
自分に自信が持てないせいでいつも背中を丸め、何も考えるわけでもなくボケーッと生きてる“大野智”とは違う。
可愛くて、ちょっぴりエッチで…、でも誰からも愛される天使のような女の子…それが「HIME」なんだって自分に魔法をかけた。