第1章 scene1:校舎
長瀬さんはここでの撮影を何度か経験しているらしく、無人の校舎内を何の躊躇いもなく奥へ奥へと進んで行く。
そして着いた先は、教員用トイレの横に設けられた、教員用と思われるシャワー室で…
決して広いとは言えないけど、人一人がシャワーを浴びるくらいなら十分な広さだ。
しかもコンパクトなサイズではあるけど、洗面台も設置されているから有難い。
僕は手に持っていた衣装を長瀬さんに預け、メイクボックスとバスローブ、それから真新しい下着だけを手に、シャワールームの中へと入った。
着ていた服を脱ぎ、適当に丸めてリュックに詰め込む。
本当は皺になるのが嫌だから、きちんと畳んで仕舞いたいところだけど、外で長瀬さんが待ってると思うとそうもいかない。
なんたって長瀬さんはせっかちだからさ…
僕はこんなこともあろうかと、予め持って来たお気に入りのボデイーソープで全身を洗うと、軽く水分を拭き取り、真新しい下着を身に着けた。
それにしても…確かに可愛いよ?
可愛いけどさ、着けにくいし、それに…窮屈なんだよな…
仕方ないんだけど…
僕は鏡に写った自分に向かってため息を一つ落とすと、下着の上に直接バスローブを羽織った。
でもこのままだと寒いから、更にブランケットを肩からかけると、
「お待たせしました…」
寒々とした廊下で僕を待つ長瀬さんに声をかけながらドアを開いた。
「おう…。つか、メイクは?」
「だってここ暗いんだもん…」
あえて長瀬さんが待ってるから…ってことは言わず、拗ねた素振りで唇を尖らせる。
ま、実際蛍光灯は点くには点いたけど、元々の薄暗さだけはどうにもならなくて…
メイクボックスの蓋を開けたものの、すぐに閉じてしまった。
「じゃあ仕方ねぇな…。一応簡易的ではあるけど、お前専用の控え室も用意して貰ってあるから、そこで済ませれば良いか…」
「うん、そうするよ」
僕が笑顔を見せると、長瀬さんは廊下に置いていたクリアボックスを持ち上げ、髭の生えた顎先を目の前の階段に向けた。