第1章 scene1:校舎
少し…のつもりが、思ったより深く寝入ってしまったのか…
「着いたぞ、起きろ」
後部座席のドアが乱暴に開けられ、そのせいで吹き込んできた冷たい風に、僕は身体を震わせ瞼を持ち上げた。
「寒っ…」
ブランケットを肩まで引き寄せながらシートを起こし、ぼやけた視界に目を凝らす。
「ねぇ、ここは…?」
忙しく機材(…と言っても、そんなに大がかりな物ではないけど)を始めた二人に問いかけてみる。
「見たところ学校みたいだけど…」
「ああ、今は廃校になってるけどな? あ、でも安心しろ、電気も水道も…、それからガスもしっかり通ってるから」
「へぇ、そうなんだ…」
「まあな。良く映画やドラマのロケに使われることもあるから、そのおかげでな」
ふーん…、撮影場所としてはそう悪くもない…って言うか、寧ろ良い方かも?
だってこの間の撮影ときたら…、マジで逃げ出したくなるくらい酷い現場だったし、それに比べたらうんとましだ。
「そんなことよか、そろそろ準備しないと間に合わないぞ?」
全ての機材を下ろし終え、ハッチバックが閉められる。
僕はブランケットに包まったまま、衣装一式と自前のメイクボックスを抱えて車から飛び降りた。
「シャワーとか使えるんだよね?」
水道もガスも通ってるって言ってたし…
「なんだ、浴びてこなかったのか?」
「浴びて来たよ? でも一応、ね?」
最後にシャワーを浴びてからそう大して時間も経ってないし、別に汚れているわけでもない。
ムダ毛の処理だって完璧な筈だし、アソコだってちゃんと洗っては来たけど、やっぱり撮影には綺麗な身体で臨みたい。
「分かった、着いて来い」
男…長瀬さんは機材の入ったクリアケースを二つ重ね、それを軽々と持ち上げると、校舎の丁度土間に通じるドアを押し開いた。
来客用のスリッパに履き替え、空気までシンと静まり返った校舎の中を歩く。
映画やドラマのロケで使われることが多いって言ってたけど、人の気配を感じない学校って、どうしてこうも不気味なんだろう…
僕は長瀬さんに置いて行かれないよう、速足でその後を追った。