第22章 日常10:僕、決めた!
「お母さんは? お父さんの耳にも入ったってことは、当然お母さんの耳にも入ったんでしょ?」
一つ一つ言葉を選びながら、翔くんにしては珍しいゆっくりとした口調で僕に問いかける。
「うん…。でも多分母ちゃんは薄々気付いてたんだと思う…」
「智くんが、男の子が好きだってこと?」
「うん…」
だって母ちゃん、父ちゃん程驚いた様子もなかったし…
寧ろ“やっぱり”ってお顔してたもん。
「お母さんは何て?」
「父ちゃんも母ちゃんも、特に何も言わなかったと思う」
正直、あの頃の記憶は、僕も殆ど覚えていない…、ってゆーか、自分自身で記憶を消したんだと思う。
そうでもしなきゃ、辛くて耐えられそうになかったから…
「でもね、何も言ってくれないのが、逆に苦しくなっちゃってさ…」
腫れ物に触るわけでもなく、普通に…何事もなかったみたいに接っしてくれることが、僕にとっては苦痛でしかなかった。
「どうして?」
「だってさ、分かるんだもん…。どんなに普通のお顔してても、心のどっかで僕のことを軽蔑してるってのが…」
「そんなこと…」
言いかけて言葉に詰まる翔くん。
ほらね、“ない”とは言いきれないでしょ?
どんなに口では軽蔑しないって言ったって、人の心の奥底までは分かんないんだからさ…
「それで家を…?」
「うん。あ、でもね、別に絶縁状態とか、そんなんじゃないんだよ? 会ってないだけで、定期的に連絡は取ってるし、今では僕のこともちゃんと理解してくれてるしね?」
理解して貰えるようになるまで、けっこう時間かかったけどね?
何たって、母ちゃんはともかくとして、父ちゃんは昔気質の頑固ジジイだからさ(笑)
そんな父ちゃんだから、男が男を…なんて、そう簡単に理解出来るわけないし、当然受け入れることだって難しかったと思う。
だからこそ、父ちゃんが僕を認めてくれた時は、それまでに感じたことないくらい、嬉しかったな…