第22章 日常10:僕、決めた!
わざわざお手製のクッキーを届けに来てくれた翔くんにお礼を言って、僕はクッキーの入った紙袋をそーっと自転車のカゴに乗せた。
リュックに入れちゃうと、何かの拍子にせっかくのクッキーが壊れちゃうからね。
自転車に鍵を差し込み、スタンドを蹴り上げたところで、僕は店長からの伝言を思い出した。
危ない危ない、肝心なこと忘れるとこだった。
「あのね、店長がね、DVD入ったからって…」
「DVDって…、もしかしてHIMEちゃんの新作?」
あ、急に顔色変わった…
「多分そうだと思うけど…」
「何だよ、それ早く言ってくれないと…」
え、僕が悪いの?
「俺、ちょっと行ってくるわ」
「う、うん…」
ってゆーかさ、顔めっちゃ緩んじゃってるけど、そんなに嬉しいの?
ねぇ、翔くんが大好きな“HIME”はここにいるんだよ?
…って、心の中でどれだけ叫んだって無駄だよね?
翔くんは、僕がHIMEだってことを知らないし、全く気付いてる様子もないんだからさ、届くわけなんかないよ…
僕は自転車のサドルに跨り、翔くんがスキップするみたく駆け上がって行った階段を見上げ、溜息を一つ落とした。
でもあとちょっとだから…
次の撮影が無事終わったら、ちゃんと翔くんに告白するって決めたんだもん。
それから、僕が“HIME”であることもちゃんと…
だからそれまでは、どんなことがあっても泣き言は言わないって決めたんだもん。
たまーに、もう一人の自分でもある“HIME”に嫉妬しちゃうことも…勿論あるけどね?
「お待たせ♪」
翔くんが貸出し用のバックを手に、ウキウキ顔で僕に手を振る。
もぉ…、幸せなそうな顔しちゃって…
そんな緩みきったお顔ばっかしてたら、イケメンが台無しになっちゃうよ?
ま、翔くんがイケメンだろうがなんだろうが、僕には関係ないけどね?
だって僕…
どんな翔くんも大好きなんだもん♡
この気持ちだけは絶対変わらないんだ。