第22章 日常10:僕、決めた!
「帰ろっか?」
翔くんが自転車のサドルに跨り、ペダルに足をかける。
「うん…」
あれ?
でも翔くんと僕のアパートって、全く逆方向なんだけど…?
ま、いっかあ(笑)
ちょっとでも長く翔くんといられるんだもんね?
喜ばなきゃね♪
「あ、ねぇ、翔くんのお父さんってどんな人?」
お母さんには会ったことあるけど、お父さんにはまだ一度も会ったことないし、翔くんを見てると、きっと厳しい人なんだろうな、って思うんだけど…
「親父は…なんつーか、堅物っつーか…。あ、でも全く話が通じないってわけじゃないんだよ? たださ、納得させるまでけっこう時間かかるっつーかさ…」
やっぱりな、僕が思った通りだ。
「あ、でも酒入るとかなり面白くなるんだけどね?」
「え、どんな風に?」
僕、何でも知りたいんだ。
翔くんがどんなお家で育って、どんな風に今の翔くんになったのか、ほんのちっちゃなことでも全部知りたいんだ。
「親父ってさ、けっこうデカい会社の重役なんだけど、その親父がだよ? 酔っ払うと、頭にネクタイ巻き付けて、腹踊りとかすんだぜ? おかしくない?(笑)」
「ふふ、それ大分だね(笑)」
「だろ?(笑) もうさ、親父の部下達にその姿見せてやりたいよ(笑)」
「みんなビックリしちゃうだろうね(笑)」
でも、なんだか僕が想像してたより、怖くなさそうで安心しちゃった♪
「智くん家は?」
「え、僕ん家? 僕ん家は…」
多分、どこにでもある普通の家庭…なんだと思う。
ただ一つ普通じゃないのは、長男である僕が生まれもってのゲイだった、ってこと…かな。
それを除けば、家族仲は悪くないし、姉ちゃんはたまに鬼みたいに怖い時あるけど、僕が虐められてると、真っ先に飛んで来て、僕を守ってくれたし…
僕が“普通”じゃないだけで、もし僕が普通の人間だったら、もしかしたら僕は家を出ることはなかったんじゃないかって思う。