第3章 scene1:屋上
また次の現場で…と、監督さんやカメラマンさんと握手を交わし、その場にいたスタッフさんからご褒美のスイーツを受け取る。
大抵の場合は花束なんかが用意されてるんだけど、僕はせっかく貰っても枯らしちゃうからと、花束を受け取ることを断わっている。
その代わりに用意されてるのが、僕の大好きなスイーツってわけ♪
ギャラはね、沢山貰えれば当然嬉しいけど、僕はスイーツが貰えるのも凄く楽しみなんだ。
「ふふ、今日は何だろうな♪」
小さな箱を両手で抱え、階段を降りる僕に、先を行く長瀬さんが振り向き様に鋭い目を光らせる。
「んな甘いモンばっか食ってると、そのうちぽっちゃり系にしか出らんなくなるぞ?」
うっ…、それはちょっと困るかも…
って言うか、そんな毎日スイーツばっか食べてるわけじゃないもん。
撮影の時だけ…
頑張った自分へのご褒美として、大好きなスイーツを楽しむのが、僕の至福の時間でもあるんだから…
「あ、次の撮影っていつ? また連絡くれるんでしょ?」
自分の荷物を纏めながら、クリアボックスを軽々持ち上げる長瀬さんに聞く。
撮影のスケジュールが分からないとバイトのシフト組めないからさ…
「今のところ再来週になると思うが…」
「分かった、空けとく」
全ての荷物をワゴン車に積み終え、僕は来る時同様、真ん中のシートを陣取る。
車が走り出すと同時に襲って来る睡魔に負けそうになるけど、のんびり寝てる暇はない。
僕は狭い車内でメイクを落とし、リュックの中で丸まっていた服に着替えを済ませた。
僕が“HIME”から“僕”に戻る瞬間だ。
「はあ…、疲れた…」
素の自分に戻った途端に湧き上がって来る疲労に、僕はシートの上で身体を伸ばした。
「少し寝るね? 着いたら起こ…し…て…」
ね…、まで言いきれずに、僕は呆気ない程簡単に睡魔に白旗を上げた。