第21章 日常9:耳を塞げば…
後のことも考えて、一旦バイト先に自転車を取り行ってから、翔くんの家に向かう。
翔くんの家には、あの日…翔くんがお熱の時に行ったきりだから、正直道なんて覚えてない。
けど、思ったよりも近くて…
「こんなに近かったっけ?」
翔くん家のガレージに自転車を停めながらポツリ言うと、翔くんは思いっきり眉毛と目尻を下げて笑った。
「それってさ、迷子になってたからじゃないの?」
って…
そうだけどさ…
確かにあの時は何回も同じ道グルグルしたし、目的地からはどんどん遠ざかったりしたけどさ、でも初めて来るトコなんだもん、しょうがないじゃん?
それをさ、そんなに笑うって…、酷くない?
「あ、ねぇ、お母さんて、僕が来ること知ってるの?」
「知らないけど?」
「え、突然お邪魔しちゃって驚かない?」
それに僕手ぶらだし…
「ああ、それなら大丈夫だよ。お袋、サプライズけっこう好きだからさ(笑)」
え、そうゆー問題なの?
ってゆーか、翔くんのお母さんって、どんな人?
「入って?」
玄関のドアを開け、翔くんが僕の手を引く。
「お邪魔…しまぁ…す…」
ヤバいよ…、超ドキドキしてる。
なんてゆーの?
恋人の親とかにご挨拶行く時って、こんな感じなの…かな?
って、僕達はまだ恋人って呼べる間柄でもないんだけどさ…
「はい、スリッパ」
「ありがと…」
翔くんが用意してくれた、この季節には不似合いな、
モコモコスリッパに履き替えていると、廊下の奥の方からパタパタと足音と、
「翔、帰ったの?」
声が聞こえて…
「ね、もしかしてお母さん…?」
急に緊張感マックスになった僕は、翔くんのシャツの裾を引っ張った。
「うん、俺。ただいま」
返す翔くんの声が、いつもと違って聞こえるのは、僕の気のせい?
「もう…、泊まってくるなら泊まって来るって、一言くらい連絡しなさ…、え?」
え…?