第21章 日常9:耳を塞げば…
ちゃんとご挨拶しなきゃって…
じゃないと翔くんが悪く思われちゃうし、僕の印象だって…
なのにいざとなると緊張で身体が固まってしまって、
「は、は、は、はじめまして…」
一言を言うのが精一杯で、目の前にいる翔くんのお母さんに頭を下げることすら出来ない僕。
すると、
「まあ、あなたが噂の大野くんね? 翔から話は聞いてたけど、本当に可愛いのね」
翔くんのお母さんが、緊張のせいで汗ばんだ僕の手を握り、ちょっぴりガサッとした手で僕の手の甲をスリスリした。
「えと…あの…」
「あら、こんな所で立ち話もなんだから、どうぞ入って?」
「は、はあ…」
翔くんのお母さんが僕の手を引いて、リビングへと促す。
ちょっぴり強引気味なところが、なんとなく翔くんに似てる気がする(笑)
だってね、
「お茶なら俺の部屋に頼むよ」
って翔くんが言ってるのに、お母さんの耳には全然届いてないみたいなんだもん(笑)
親子って、お顔だけじゃなくて性格も似たりするのね?
結局お母さんに押し切られる格好でリビングのソファに腰を下ろした僕は、
「ゴメンな、うちのお袋ちょっと面倒臭いとかあってさ…」
隣で苦笑いを浮かべる翔くんに、そんなことないよって首を横に振ってみせた。
嬉しかったんだもん。
翔くんのお母さんに(今のところは)歓迎されてるみたいだし、何より翔くんが僕のこと可愛いってさ…、そんな風に言ってくれてると思わなかったから、すっごく嬉しくて♪
ついついお顔の筋肉が緩んでしまいそうになる。
けど、緊張を解くのはまだ早い。
ほら、僕ってば油断すると、絶対失敗しちゃうタイプじゃん?
だからそう簡単に緊張の糸を切るわけにはいかない…筈だったんだけどな…
「大野くん、甘い物好きなのよね?」
「え、は、はい…」
「頂き物のチョココロネがあるんだけど…」
え、チョココロネ?
「わぁー、僕チョココロネ大好き♡」
チョココロネがあるなんて言われたらさ、やっぱり興奮しちゃうんだよね…